借地権と底地の同時売却とは?別々に売るより高くなる理由と代金の分け方を不動産鑑定士が解説
借地権と底地の同時売却を検討する地主様・借地人様へ。別々に売るより高くなりやすい理由(併合による増分)、借地権割合・単独価格の比・増分の配分による代金の分け方の違い、進め方と注意点を試算つきで不動産鑑定士が解説します。

「借地権と底地の同時売却をすると高く売れると聞いたけれど、本当だろうか」「売れたお金を地主と借地人でどう分ければいいのか分からない」。借地の土地を手放したいと考えている地主様・借地人様から、こうしたご相談をいただきます。インターネットでは「借地権割合で分けるのが一般的」という説明をよく見かけますが、その数字だけで話を進めてよいのか、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えします。借地権と底地の同時売却(地主と借地人が協力して、借地権と底地をまとめて第三者に売ること)は、別々に売るよりも合計の手取りが大きくなることが多い売り方です。土地が完全な所有権として売れるため、買い手の層が広がり、借地ならではの制約による値引きがなくなるからです。一方で、売却代金の分け方に決まった公式はありません。路線価の借地権割合は目安の一つにすぎず、当事者の納得を得るには「なぜその割合なのか」という根拠が必要です。
この記事では、同時売却で価格が高くなる理由、代金の配分方法の比較、進め方と注意点を、想定されるケースの試算を使って私たち鑑定士が整理します。
借地権と底地の同時売却とは
地主と借地人が協力して「一つの土地」として売る方法
借地の土地は、建物を所有するために土地を借りる権利である借地権(借地人が持つ権利)と、借地権が付いている土地の所有権である底地(地主が持つ権利)に分かれています。同時売却は、この二つを同じ買い手にまとめて売り、買い手は完全な所有権の土地として取得する方法です。売買の形は、地主と借地人が共同の売主となって一つの売買契約を結ぶ場合と、同じ買い手とそれぞれ契約を結び、同じ日に決済する場合があります。
単独で売る場合との違い
借地人が借地権だけを第三者に売るには、地主の承諾と譲渡承諾料(地主が譲渡を認める対価として受け取る一時金)が必要です。地主が底地だけを売る場合、買い手は主に底地の買取業者に限られ、価格は地代収入から逆算した低い水準になりがちです。
| 売り方 | 主な買い手 | 価格の特徴 |
|---|---|---|
| 借地権だけを売る | 借地権付き建物の購入者・業者 | 承諾料の負担、住宅ローンの付きにくさで価格が下がりやすい |
| 底地だけを売る | 底地の買取業者 | 地代収入から逆算した低い価格になりやすい |
| 同時売却 | 一般の購入者・建売業者など | 完全な所有権の土地として、更地に近い価格で売れる可能性がある |
底地の買取業者の価格の組み立て方は底地の買取業者の提示額は妥当?で、借地権を単独で売るときの承諾料の負担は借地権の売買で承諾料は誰が払う?で詳しく解説しています。
同時売却で価格が高くなる理由
完全な所有権に戻ることで生まれる「増分」
借地権と底地が同じ人のものになると、地代の支払いや建替え・譲渡の承諾が不要になり、土地を自由に使えるようになります。その結果、借地権の価格と底地の価格を別々に足した金額よりも、完全な所有権の土地の価格のほうが高くなることがあります。この差額を、私たち鑑定士は「併合による増分」と呼んでいます。
評価基準も「経済価値の増分」に言及している
不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める鑑定評価のルール)は、底地を借地権者が買い取る場合について、土地と建物が同一の所有者に帰属することによる「市場性の回復等に即応する経済価値の増分」が生じる場合があることに留意すべきとしています(各論第1章第1節)。また、借地権者が底地の併合を目的とする売買を、限定価格(特定の当事者間でのみ合理性が認められる価格)を求める場合の例として挙げています(総論第5章第3節)。
同時売却は当事者の一方が買い取る取引ではありませんが、完全な所有権に戻ることで増分が生じるという構造は同じです。違いは、その増分を第三者の買い手から代金として受け取り、地主と借地人で分け合う点にあります。
買い手の層が広がり、融資も付きやすくなる
借地権付き建物は、金融機関が担保として評価しにくく、住宅ローンが付きにくい傾向があります(詳しくは借地権付き建物に住宅ローンは付きにくい?)。完全な所有権の土地であれば、一般の個人や建売業者など買い手の層が広がり、競争が生まれやすくなります。これも、同時売却の価格が高くなりやすい理由です。
同時売却の代金はどう分ける?配分方法の比較
路線価の借地権割合で分ける方法
最もよく紹介されるのが、路線価図に記載された借地権割合(国税庁が相続税・贈与税の評価のために地域ごとに定める割合で、30%〜90%の7段階)で分ける方法です。借地権割合が60%の地域なら、借地人が6割、地主が4割という分け方になります。分かりやすい反面、借地権割合はあくまで税務上の評価のための数字で、個々の契約内容(地代の水準、残りの期間、更新料の有無など)は反映されていません。
単独で売った場合の価格の比で分ける方法
借地権と底地をそれぞれ第三者に売った場合の価格を求め、その比率で代金を分ける方法です。鑑定評価の考え方に近く、契約内容の違いを反映しやすい一方、単独の価格を求める作業が必要です。住宅地の底地は単独ではかなり低い価格になるため、この方法では借地人の取り分が大きくなりやすい点に注意が必要です。
増分を別に分ける方法
単独で売った場合の価格をまず双方に確保し、同時売却によって上乗せされた増分だけを、折半や一定の比率で分ける方法です。地主が協力しなければ借地人は承諾料を負担して単独で売るしかなかった、という事情を考慮し、増分の配分で地主側に配慮することもあります。
想定されるケース:更地価格6,000万円の借地を同時売却
説明のための仮の数値です。実際の配分は契約内容、地代の水準、双方の事情を踏まえて個別に判断します。
- 土地:住宅地、更地としての時価6,000万円(仮)、路線価図の借地権割合60%
- 同時売却の手取り:6,000万円 − 建物解体費・測量費等250万円 = 5,750万円
- 単独で売った場合(仮):借地権3,000万円(承諾料や市場性の低さを反映)、底地800万円(業者の買取価格)
- 単独の合計は3,800万円で、同時売却による増分は1,950万円
| 配分の考え方 | 借地人の取り分 | 地主の取り分 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 借地権割合(60:40) | 3,450万円 | 2,300万円 | 簡便だが契約内容を反映しない |
| 単独価格の比(3,000:800) | 約4,539万円 | 約1,211万円 | 借地人に有利になりやすい |
| 単独価格+増分を折半 | 3,975万円 | 1,775万円 | 双方の協力の貢献を均等に評価 |
同じ5,750万円でも、配分の考え方によって地主の取り分は約1,211万円から2,300万円まで、1,000万円以上の差が生じます。どの方法でも、地主・借地人とも単独で売るより手取りが増える点は共通していますが、どの水準で合意するかは交渉次第です。
どの方法が正しいという決まりはありません。だからこそ、私たち鑑定士は「単独で売った場合の価格」「完全な所有権の価格」「増分の大きさ」を中立的に示し、配分の話し合いの土台をつくることが大切だと考えています。
借地権と底地の同時売却の進め方
1. 権利関係と契約内容を確認する
まず、借地契約書、地代の支払状況、土地・建物の登記を確認します。底地や借地上の建物が共有になっている場合は、共有者全員の同意が必要です。建物に抵当権が付いていれば、決済までに抹消する段取りも必要になります。
2. 価格の目安と配分を合意し、書面に残す
売り出す前に、想定売却価格と配分方法を地主・借地人で合意し、覚書などの書面に残しておくことをお勧めします。売却の途中で配分をめぐって対立すると、買い手が見つかっても契約に進めなくなるからです。解体費・測量費・仲介手数料を誰がどの割合で負担するかも、あわせて決めておきます。合意書の内容は弁護士にご確認ください。
3. 宅建業者に売却を依頼し、決済する
売却活動は、宅建業者(宅地建物取引業の免許を持つ不動産会社)に依頼します。建物を解体して更地で引き渡すのか、建物付きで引き渡すのかによって、借地人の転居時期や費用が変わります。当事務所は宅建業者ではないため、売買の仲介や買取りは行いませんが、地元の宅建業者をご紹介できます(紹介料は頂きません)。
同時売却で注意したいポイント
一方が途中で翻意するリスク
同時売却は、地主と借地人の双方が売ることに同意して初めて成り立ちます。どちらかが途中で考えを変えると売却はできません。書面の合意で、売却価格の下限や期限、途中で取りやめる場合の費用負担を決めておくと安心です。
税金は地主・借地人それぞれにかかる
同時売却でも、地主は底地の譲渡、借地人は借地権と建物の譲渡として、それぞれに譲渡所得の課税が生じ得ます。取得費の扱いや特例の適用は個別の事情で変わるため、税務上の取扱いは税理士にご確認ください。借地権の売却と税金の関係は借地権を地主に買い取ってもらうと税金はどうなる?も参考になります。
同時売却以外の選択肢も比べる
地主が借地権を買い取る、借地人が底地を買い取る、土地を分けて持ち合う等価交換といった方法もあります。どの方法が双方にとって有利かは、資金の有無や今後の土地の使い方によって変わります。選択肢ごとの考え方は地主・借地人間の買取で整理しています。
鑑定士に相談すると分かること
配分の根拠となる価格を中立に示す
私たち鑑定士は、売買の当事者ではない中立の立場で、完全な所有権の土地の価格、借地権と底地を単独で売った場合の価格、増分の大きさを求めます。数字の根拠を双方が共有できれば、配分の話し合いが感情論になりにくくなります。
目的に応じた成果物を選ぶ
話し合いの目安を知りたい段階なら価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない、目的・範囲を限定した価格調査)が15万円〜、相手方や業者から示された配分案の前提を検証するセカンドオピニオンが5万円〜、借地権・底地の正式な鑑定評価書は40万円〜(いずれも税別)です。詳しくは料金をご覧ください。
まとめ
借地権と底地の同時売却は、土地を完全な所有権として売ることで、地主・借地人の双方が単独で売るより多くの手取りを得られる可能性がある方法です。ただし、代金の分け方には決まった公式がなく、根拠のある数字を共有できるかどうかが成否を分けます。
要点を振り返ります。
- 同時売却は、地主と借地人が協力して借地権と底地をまとめて第三者に売る方法
- 完全な所有権に戻ることで「併合による増分」が生じ、買い手の層も広がるため、別々に売るより高くなりやすい
- 代金の配分は、借地権割合・単独価格の比・増分の配分など複数の考え方があり、地主の取り分に1,000万円以上の差が出ることもある
- 売り出す前に、配分方法と費用負担、取りやめる場合の扱いを書面で合意しておく
- 税金は地主・借地人それぞれにかかるため、税理士に確認する
借地関係を解消して土地を手放したい地主様・借地人様、同時売却の相談を受けている税理士・弁護士の先生方は、まず「単独で売った場合」と「一緒に売った場合」の価格を並べてみることから始めてみてください。
借地権と底地の同時売却の価格や代金の配分でお悩みの方は、当事務所の初回無料相談をご利用ください。ぜひ一度ご相談ください。
REFERENCES
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
借地権・底地の価格や承諾料を不動産鑑定士がどう評価するか、費用や進め方は借地・底地の不動産鑑定のページでまとめています。
FREE CONSULTATION
鑑定が必要かどうかのご相談だけでも歓迎です
記事に関連するお悩みについて、不動産鑑定士に直接ご相談いただけます。
関連記事

底地の買取業者の提示額は妥当?査定の前提をチェックする4つの視点を不動産鑑定士が解説
底地の買取業者から提示された金額が妥当か判断できない地主様へ。提示額が低くなりやすい構造、前提とした地代・期間・承諾料・借地人との交渉見込みの確認方法、鑑定評価の収益価格との比べ方を鑑定士の視点で解説します。
読了 約9分

借地権の売買で承諾料は誰が払う?売主・買主の負担と売買価格への織り込み方を不動産鑑定士が解説
借地権を売買するとき、地主に払う譲渡承諾料は売主と買主のどちらが負担するのか。地主との関係、地域の慣行、売買契約での取り決め、売買価格への織り込み方を、不動産鑑定評価基準の考え方とあわせて不動産鑑定士が整理します。
読了 約9分

借地権を地主に買い取ってもらうと税金はどうなる?税額を左右する「売買価格=時価」を不動産鑑定士が解説
借地権を地主に買い取ってもらうとき、どんな税金が関係するのか。税目の種類を整理したうえで、税額の前提となる売買価格=時価の重要性と、親族・同族間の取引で時価から離れた価格にするリスクを鑑定士の視点で解説します。
読了 約10分