TOPIC / 借地非訟

借地非訟の流れ・費用・期間──地主が承諾しないときの裁判所の手続

借地非訟は、借地権の譲渡や建替えを地主が承諾しないとき、裁判所が承諾に代わる許可を与える手続です。借地非訟では鑑定委員会が承諾料や借地権価格について意見を述べますが、当事者の側でも根拠のある価格資料を持っておくことが、交渉と主張の質を左右します。

裁判所の建物

このページの結論

  • 借地非訟は6つの類型があり、借地条件の変更、増改築の許可、借地権の譲渡・転貸の許可などを裁判所に求める手続です。更新料の額を決める類型はありません。
  • 東京地方裁判所では、申立てから概ね1か月〜1か月半後に第1回審問期日が開かれ、多くの事件は概ね1年以内に終わっているとされています。
  • 手続代理人は原則として弁護士に限られます。鑑定委員会の費用は国が負担し、当事者の負担はありません。
  • それでも当事者側で価格資料を用意するのは、申立て前の交渉、主張の組立て、鑑定委員会の意見書への意見の3つの場面で根拠が必要になるからです。
吉田 健人

執筆: 吉田 健人(不動産鑑定士 登録番号 第11191号)
株式会社KRE Appraisal|不動産鑑定業者登録 東京都知事(1) 第2987号

借地非訟とは──6つの類型

借地非訟とは、借地をめぐる一定の紛争について、通常の訴訟ではなく、裁判所の非訟手続(公開の法廷での対審によらず、裁判所が当事者の事情を聴いて判断する手続)で扱う制度です。地主(借地権設定者)の承諾が得られないために借地人(借地権者)が建替えや売却をできない場面で、裁判所が承諾に代わる許可を与えるのが代表例です。

東京地方裁判所の案内では、借地非訟事件は次の6種類に整理されています。

借地非訟事件の6つの類型
類型根拠条文内容
① 借地条件変更借地借家法17条1項木造など非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的への変更など
② 増改築許可17条2項増改築制限特約がある場合の、地主の承諾に代わる許可
③ 更新後の建物再築許可18条1項契約更新後の再築の許可。平成4年8月1日以降に設定された借地権のみ
④ 土地賃借権譲渡・転貸許可19条1項借地上の建物を第三者に売る場合の、譲渡・転貸の承諾に代わる許可
⑤ 競売・公売に伴う土地賃借権譲受許可20条1項競売・公売で建物を取得した人の申立て。代金支払後2か月以内
⑥ 借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立(介入権)19条3項、20条2項地主が自ら建物と借地権を買い受ける申立て

管轄は、借地の所在地を管轄する地方裁判所です(同法41条。当事者の合意があれば簡易裁判所も可)。東京地方裁判所では、23区と島しょ部の借地は民事第22部、多摩地区の借地は立川支部民事第4部が担当します。

なお、更新料の額を定める類型はありません。更新料の論点は更新料の解説をご覧ください。

借地非訟の流れと期間──東京地方裁判所の手続

東京地方裁判所民事第22部の案内に沿って、借地非訟の標準的な流れを整理します。

借地非訟の流れ(東京地方裁判所民事第22部の案内をもとに整理)
段階内容時期の目安
1. 申立て申立書・固定資産評価証明書・契約書等を提出し、申立手数料を納付―
2. 第1回審問期日裁判官が当事者から意見を聴く。相手方は事前に答弁書を提出申立てから概ね1か月〜1か月半後
3. 主張の整理必要に応じて審問期日を重ね、準備書面・証拠資料を交換事案による
4. 鑑定委員会の現地調査主張の整理が終わった段階で、鑑定委員会が現地を調査指定した審問期日から約1か月半程度後
5. 意見書の提出鑑定委員会が評議した結果を意見書として提出。副本が当事者に交付される―
6. 意見書後の審問期日意見書について当事者の意見を聴く(事前に書面での提出を求められる)意見書提出から1か月〜1か月半程度
7. 決定決定書の正本が送達される。不服があれば送達から2週間以内に即時抗告多くの事件は概ね1年以内に終了

※ 出典: 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」。第1回審問期日から終了までの間に和解が勧められることがあり、和解・調停で終わる事件もあります。

審問手続は非公開です。裁判所は、借地関係が継続的な信頼関係に立脚するものであることから、手続の途中で適宜和解を勧めることがあります。和解が成立すれば、和解調書は確定した終局決定と同一の効力を持ちます。日本地主家主協会の解説でも、申立てから決定まで概ね半年〜1年程度で、和解による解決も少なくないと紹介されています。

許可の決定を得たあとにも期限があります。譲渡の許可の裁判は、効力発生後6か月以内に建物を譲渡しないと効力を失います(同法59条。裁判で期間の伸縮が可能)。買主との条件交渉は、決定後の期限も見据えて進める必要があります。

借地非訟の費用──申立手数料・郵便切手・弁護士費用

借地非訟でかかる費用は、大きく次の3つです。

  • 申立手数料(収入印紙):借地の固定資産税評価額を基礎に算定します。当分の間は固定資産評価額の2分の1を基準とし、増改築許可のみの申立ては「固定資産評価額÷10×3÷2」、それ以外は「固定資産評価額÷2」を目的物の価格として、手数料早見表で印紙額を決めます。
  • 郵便切手:当事者に書類を送るための切手を予納します(相手方1名につき6,000円)。
  • 弁護士費用:手続を代理人に依頼する場合、代理人は原則として弁護士に限られます(同法44条1項)。費用は依頼する弁護士との契約によります。
申立手数料の基礎となる「目的物の価格」の計算例(説明のための仮の数値)

借地の固定資産評価額

4,000万円

仮の数値

譲渡許可・条件変更などの目的物の価格

2,000万円

借地の固定資産評価額

4,000万円

仮の数値

増改築許可のみの目的物の価格

600万円

※ 借地の固定資産評価額4,000万円は説明のための仮の数値です。実際の印紙額は、算出した目的物の価格を裁判所の手数料早見表に当てはめて決まります。

鑑定委員会の費用は国が負担するため、当事者に費用はかかりません。このため「裁判所の鑑定委員会がいるなら、自分で鑑定を頼む必要はない」と考える方もいます。その考え方がどこまで正しいかは、後の「鑑定士の視点」で整理します。

鑑定委員会とは──承諾料や借地権価格について意見を述べる専門家

鑑定委員会は、借地関係や不動産の評価について専門的な知識を補い、民間の良識を反映させるために設けられた制度です。裁判所は事件ごとに、弁護士、不動産鑑定士、有識者(建築士を含む)から3人以上の鑑定委員を指定します(同法47条)。

裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、決定の前に鑑定委員会の意見を聴かなければなりません(同法17条6項、19条6項など)。鑑定委員会が意見を述べる事項の例として、東京地方裁判所は次のようなものを挙げています。

  • 申立てを許可するかどうか
  • 承諾料の額(一般に「建替え承諾料」「名義変更料」などといわれる金銭)
  • 許可にあわせて改定する地代の額
  • 介入権が行使された場合の建物及び借地権の価格

承諾料の水準について、日本地主家主協会の解説では、借地条件の変更は更地価格の10%程度を一応の基準、増改築の許可は全面的改築で更地価格の3〜5%・一部改築で1〜3%程度、借地権の譲渡・転貸の許可は概ね借地権価格の10%程度を基準とし、いずれも諸事情を考慮して決定されると紹介されています。個別の論点は譲渡承諾料と建て替え承諾料の解説をご覧ください。

介入権──地主が自ら建物と借地権を買い受ける申立て

借地人が借地権の譲渡の許可を申し立てたとき、地主は、裁判所が定める期間内に、自ら建物の譲渡と借地権の譲渡を受ける旨を申し立てることができます(同法19条3項)。これを介入権といいます。地主が介入権を行使すると、裁判所は相当の対価を定めて、借地人に地主への譲渡を命じることができ、当事者双方に同時履行を命じることもできます。

介入権には、次のような特徴があります。

  • 取下げが制限される:介入権の申立てを認める裁判があった後は、当事者の合意がなければ、借地人の申立ても地主の申立ても取り下げられません(同条5項)。
  • 借地人の申立てが前提:借地人の許可の申立てが取り下げられたり、不適法として却下されたりすると、介入権の申立ても効力を失います(同条4項)。
  • 対価は裁判所が定める:相当の対価は、鑑定委員会の意見を踏まえて裁判所が定めます。

地主様にとって介入権は、見知らぬ第三者が借地人になることを避け、土地の完全な所有権を取り戻す機会になり得ます。一方で、相当の対価を支払う資金の準備が必要です。借地人様にとっては、第三者との売買を予定していても地主に売ることになる可能性がある、という点を踏まえて手続を選ぶ必要があります。介入権を行使するかどうかの判断は、詳しくは弁護士にご確認ください。

資料を示しながら説明する様子

借地非訟の申立てを検討している、または申し立てられた方へ。代理人の弁護士の先生からのご相談もお受けしています。手続のどの段階で、どの価格資料が必要かをお伝えします。

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鑑定士の視点:鑑定委員会の費用は国負担なのに、なぜ当事者側で価格資料を用意するのか

鑑定委員会の意見は、裁判所の判断に大きな影響を持ちます。それでも当事者の側で借地権価格や承諾料の根拠を用意しておく意味は、次の3つの場面にあります。

  • ① 申立て前・和解の交渉段階:借地非訟は時間と費用がかかる手続です。申立ての前に、根拠のある金額を示して交渉できれば、手続に進まずに合意できる可能性が高まります。手続が始まってからも裁判所から和解が勧められることがあり、そのときに金額の根拠を持っている側が交渉を主導しやすくなります。
  • ② 主張の組立て:裁判所は、借地権の残存期間、借地に関する従前の経過、譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮します(同法19条2項、17条4項)。地代が低く据え置かれてきた経緯、過去に授受された一時金、建物の状況など、どの事情が価格にどう効くのかを整理した資料は、主張の説得力を支えます。
  • ③ 鑑定委員会の意見書への意見:意見書の提出後、裁判所は当事者から意見書についての意見を聴く審問期日を開き、意見は事前に書面で提出するよう求めています。意見書の前提条件・採用した数値・計算過程に不合理な点がないかを検証し、根拠をもって意見を述べるには、評価の専門的な知見が欠かせません。

不動産鑑定評価基準は、借地権の価格を、借地権者に帰属する経済的利益(土地を長期間安定して使える利益と、適正な地代と実際の地代との差である賃料差額に基づく利益のうち、慣行的に取引の対象となっている部分)として捉えます。承諾料や介入権の対価は、この借地権価格を土台に議論されることが多く、土台の見立てが違えば結論も変わります。

当事務所の料金は、借地非訟を含む争訟案件では価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(税別)を起点としています。相手方や鑑定委員会の意見書の検証のみであれば、セカンドオピニオン(5万円〜・税別)でもお受けします。

CASE

借地非訟で想定されるケース

※ 実際のご相談内容ではなく、起こりうる状況として作成したシナリオです。実在の人物・案件とは関係ありません。

CASE 01

借地人側:譲渡の許可を申し立てる前に、承諾料の水準を確かめたい

状況

借地上の建物を第三者に売りたい借地人様。地主様が承諾せず、代理人の弁護士は借地非訟の申立てを検討しています。申立ての前に、地主様へ示す承諾料の案と、その根拠を固めたいと考えています。

評価資料を用意した場合

借地権価格を地代水準や残存期間を踏まえて評価し、承諾料の案とあわせて示すことで、申立て前の交渉の材料になります。手続に進んだ場合も、主張書面の裏付けや、意見書への意見を述べる際の比較資料として使えます。

CASE 02

地主側:介入権を行使するか迷っている

状況

借地人様から譲渡の許可を申し立てられた地主様。第三者が借地人になるよりは自ら買い受けたいと考えていますが、どの程度の対価になるのか、資金の見通しが立ちません。

評価資料を用意した場合

建物と借地権の価格を事前に評価しておけば、介入権を行使した場合の対価の水準を見込んだうえで判断できます。行使後は合意なく取り下げられないため、事前の見立てが重要になります。

よくあるご質問

借地非訟は、申立てから決定までどのくらいの期間がかかりますか。

東京地方裁判所の案内では、多くの事件は概ね1年以内に終わっているとされています。日本地主家主協会の解説でも、申立てから決定まで概ね半年〜1年程度と紹介されています。途中で和解や調停により終了することもあります。

借地非訟の費用はどのくらいかかりますか。

裁判所に納める費用は、借地の固定資産税評価額を基礎に算定する申立手数料(収入印紙)と、書類送付用の郵便切手です。鑑定委員会の費用は国が負担するため、当事者の負担はありません。このほか、弁護士に手続代理を依頼する費用や、当事者側で価格資料を用意する場合はその費用がかかります。

借地非訟は弁護士に頼まず自分で申し立てられますか。

本人が申し立てることは可能です。ただし、代理人に依頼する場合、代理人は原則として弁護士に限られます(借地借家法44条1項)。主張の組立てや鑑定委員会の意見書への対応など専門的な判断が多い手続のため、弁護士へのご相談をおすすめします。

借地非訟で地主が介入権を使うと、借地人はどうなりますか。

地主が、裁判所の定める期間内に自ら建物と借地権の譲渡を受ける旨を申し立てると、裁判所は相当の対価を定めて譲渡を命じることができます(借地借家法19条3項)。借地人は第三者ではなく地主に売ることになり、対価は鑑定委員会の意見を踏まえて裁判所が定めます。この裁判の後は、当事者の合意がなければ申立てを取り下げられません。

借地非訟の価格資料、手続のどの段階からでもご相談ください

申立て前の交渉資料、主張書面の裏付け、鑑定委員会の意見書の検証まで、手続の段階に応じて必要な資料をご提案します。代理人の弁護士の先生からのご相談もお受けしています。初回のご相談は無料です。

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