TOPIC / 建物買取請求権

借地権の建物買取請求権──買取価格の「時価」はどう決まるか

借地権の建物買取請求権は、借地契約が更新されずに終わるとき、借地人が地主に建物を「時価」で買い取るよう請求できる権利です。その時価は借地権付建物として売る価格とは別物で、最高裁判例が示す「場所的利益」をどう評価するかで金額が大きく変わります。

借地上に建つ住宅

このページの結論

  • 借地権の存続期間が満了し更新がないとき、借地人は地主に建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法13条)。借地人に不利な特約は原則として無効です。
  • 地主が借地権の譲渡を承諾しないとき、借地上の建物を取得した第三者も、建物を時価で買い取るよう請求できます(同法14条)。
  • 時価は建物が現存するままの状態の価格で、借地権そのものの価格は加算しませんが、建物が存在する場所的環境(場所的利益)は参酌すべきとされています。
  • 定期借地権では、買取請求をしない特約を定めることができます。借地権の種類によって結論が変わります。
吉田 健人

執筆: 吉田 健人(不動産鑑定士 登録番号 第11191号)
株式会社KRE Appraisal|不動産鑑定業者登録 東京都知事(1) 第2987号

借地権の建物買取請求権とは──借地借家法13条の仕組み

借地の上に建てた建物は借地人様の財産です。借地契約が終わるとき、建物を取り壊して更地で返すとなれば、借地人様は投下した資本を失い、まだ使える建物も無駄になります。そこで借地借家法13条は、借地権の存続期間が満了した場合に契約の更新がないときは、借地権者が借地権設定者(地主)に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を「時価」で買い取るよう請求できるとしています。

建物買取請求権のポイントは次のとおりです。

  • 行使できる場面:存続期間が満了し、更新がないときです。地主が更新を拒むには正当の事由が必要で(同法6条)、その判断では立退料などの財産上の給付の申出も考慮されます。更新拒絶が認められ契約が終わる場面で、買取請求権が問題になります。
  • 特約で排除できない:13条に反する特約で借地権者に不利なものは無効です(同法16条)。「契約終了時は借地人の費用で建物を収去する」といった特約があっても、普通借地権では買取請求権を失わないのが原則です。
  • 無断で建てた建物の扱い:残存期間を超えて存続する建物を地主の承諾なく新築していた場合、裁判所は地主の請求により、代金の全部または一部の支払に相当の期限を与えることができます(同法13条2項)。
  • 転借地権者にも準用:転借地権が設定されている場合、転借地権者と地主の間にも準用されます(同条3項)。

更新拒絶と立退料の問題は、建物買取請求権と表裏の関係にあります。地主様にとっては、更新を拒んで土地を取り戻す場合、立退料に加えて建物の買取代金も視野に入れる必要があるということです。

第三者の建物買取請求権(14条)──譲渡の承諾が得られないとき

建物買取請求権は、借地人本人だけのものではありません。借地借家法14条は、第三者が借地上の建物を取得した場合に、地主が賃借権の譲渡または転貸を承諾しないときは、その第三者が地主に対し、建物を時価で買い取るよう請求できるとしています。

たとえば、競売で借地上の建物を落札した人や、地主の承諾を得ないまま建物を譲り受けた人が、地主から土地の明渡しを求められる場面が想定されます。第三者は建物を所有していても、借地権を地主に主張できなければ土地を使い続けることができません。そこで、建物の価値だけは時価で回収できるようにしたのが14条です。

ただし、借地権の譲渡については、借地人が売却前に裁判所へ承諾に代わる許可を求める借地非訟の手続(同法19条)があり、競売・公売で建物を取得した人にも代金支払後2か月以内に許可を求める手続(同法20条)が用意されています。借地権ごと取得できるのか、建物の時価の回収にとどまるのかで、手元に残る金額は大きく異なります。手続の選択は、詳しくは弁護士にご確認ください。まだ弁護士に依頼されていない方には、弁護士のご紹介も可能です。借地非訟の手続は借地非訟の解説をご覧ください。

建物買取請求権の「時価」とは──最高裁判例と場所的利益

建物買取請求権で最も争いになるのが、「時価」をいくらと見るかです。条文は「時価」と定めるだけで、その中身は判例によって形づくられてきました。

最高裁昭和35年12月20日判決(民集14巻14号3130頁。旧借地法の事案)は、建物買取請求権の買取価格について、次のように判断しています。

  • 買取価格は、建物が現存するままの状態における価格である
  • 敷地の借地権そのものの価格は加算すべきでない
  • ただし、建物の存在する場所的環境は参酌すべきである

この「場所的環境」を考慮した部分は、一般に「場所的利益」と呼ばれます。同じ構造・同じ築年数の建物でも、駅に近く利便性の高い場所に建っている建物と、そうでない場所の建物とでは、建物としての利用価値が異なる、という考え方です。

つまり、建物買取請求権の時価は「建物だけの価格」でも「借地権付建物の価格」でもなく、その中間に位置づけられるものです。借地権価格は加算されないため、借地人様が期待する「借地権付きの家として売れる値段」よりは大幅に低くなる一方、建物の解体を前提とした価格よりは高くなり得ます。

借地権付建物の価格と、建物買取請求権の時価の違い(説明のための仮の数値)
借地権付建物として売る場合の目安3,600万円

借地権3,000万円+建物600万円

建物買取請求権の時価600万円+場所的利益

借地権価格は加算しない。場所的環境を参酌する

建物の現存状態の価格のみ600万円

場所的利益を考慮しない場合

※ 説明のための仮の数値です。更地価格5,000万円・借地権割合60%・建物の現存状態の価格600万円と仮定しています。場所的利益の程度は個別の事情によって判断されるもので、図の幅は一例です。

資料を示しながら説明する様子

更新拒絶や明渡しの話が出ている借地人様・地主様へ。建物の状況と所在地をうかがえれば、建物の時価と場所的利益をどう評価するかの見立てをお伝えします。

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定期借地権と建物買取請求権の関係

建物買取請求権を特約で排除できない原則には、定期借地権という例外があります。借地権の種類ごとに整理すると次のとおりです。

借地権の種類と建物買取請求権
借地権の種類建物買取請求権根拠
普通借地権あり(不利な特約は無効)借地借家法13条・16条
旧法借地権あり(前掲の最高裁判例も旧借地法の事案)旧借地法、借地借家法附則4条
定期借地権(存続期間50年以上)買取請求をしない特約を定められる(公正証書等の書面が必要)22条
事業用定期借地権等(30年以上50年未満)買取請求をしない特約を定められる(公正証書が必要)23条1項・3項
事業用定期借地権等(10年以上30年未満)13条は適用されない(公正証書が必要)23条2項・3項
建物譲渡特約付借地権設定後30年以上経過した日に建物を地主に相当の対価で譲渡する特約24条
一時使用目的の借地権13条は適用されない25条

※ 旧法借地権の買取請求権については、施行前に生じた事項にも借地借家法が適用されるものの、旧法により生じた効力は妨げられません(附則4条)。個別の契約への当てはめは弁護士にご確認ください。

定期借地権の契約でも、特約の定め方や書面の要件を満たしているかによって、買取請求権の有無が争われることがあります。契約書の種類と特約の文言を確認することが出発点です。旧法と新法の違いについては旧法借地権と新法の解説もあわせてご覧ください。

鑑定士の視点:建物の「時価」をどう評価するか

建物買取請求権の時価は、判例の枠組みに沿って、①建物が現存するままの状態における価格と、②場所的利益の2つに分けて検討します。

①の建物の価格は、不動産鑑定評価の手法のうち原価法(Cost Approach。建物を今建て直すといくらかかるかという再調達原価を求め、経年劣化や機能の古さなどによる減価を差し引く方法)を中心に求めるのが一般的です。建物の構造、築年数、維持管理の状態、増改築の履歴などを現地で確認し、減価の程度を個別に判断します。「築年数が古いから価値はゼロ」と一律に割り切れるものではなく、補修や設備更新の状況によって評価は大きく変わります。

②の場所的利益は、判例が「借地権そのものの価格は加算すべきでない」としつつ「場所的環境は参酌すべき」とした部分で、その程度は事案ごとの判断になります。借地権価格とどう線を引くかは評価の専門的な判断が問われる論点であり、根拠を示さずに主張すれば相手方に受け入れられにくい部分です。

不動産鑑定評価基準は、借地権の価格と底地の価格が密接に関連し合っているとして、相互に比較検討すべきとしています。建物買取請求の場面でも、借地権付建物としての価格、底地の価格、建物の時価の関係を整理しておくと、立退料の交渉や更新拒絶の是非を検討する際に、全体の金額感を見失わずに済みます。

当事務所は地主様・借地人様のどちらからのご依頼でも、同じ基準で評価します。交渉の目安には価格等調査報告書(15万円〜・税別)、訴訟などに提出する資料には鑑定評価書(争訟案件は60万円〜・税別を起点)をご提案します。

CASE

建物買取請求権で想定されるケース

※ 実際のご相談内容ではなく、起こりうる状況として作成したシナリオです。実在の人物・案件とは関係ありません。

CASE 01

借地人:更新を拒まれ、建物の買取価格の提示が低すぎる

状況

期間満了を迎え、地主様から更新を拒まれた借地人様。建物買取請求をしたところ、地主様からは「古い木造なので価値はほとんどない」として、解体費用を差し引いたような金額を提示されました。

評価資料を用意した場合

建物の現存状態の価格を原価法で評価し、立地に応じた場所的利益をどう参酌するかの根拠を示すことで、判例の枠組みに沿った金額を主張する土台ができます。借地権価格を加算しない点も踏まえた、相手方にも説明できる資料になります。

CASE 02

地主:借地上の建物を取得した第三者から買取請求を受けた

状況

借地人様が亡くなった後、地主様の承諾がないまま建物が第三者に譲渡され、その第三者から建物を時価で買い取るよう請求された地主様。提示額には借地権の価値まで含まれているように見えます。

評価資料を用意した場合

時価は建物が現存するままの状態の価格で、借地権そのものの価格は加算しないという判例の考え方に沿って評価すれば、提示額のうち借地権に相当する部分を切り分けて検討できます。

よくあるご質問

借地権の建物買取請求権は、どんなときに使えますか。

借地権の存続期間が満了し、契約の更新がないときに、借地権者が地主に対して建物などを時価で買い取るよう請求できる権利です(借地借家法13条)。また、借地上の建物を取得した第三者は、地主が借地権の譲渡・転貸を承諾しないとき、建物を時価で買い取るよう請求できます(同法14条)。

建物買取請求権の「時価」に、借地権の価格は含まれますか。

最高裁昭和35年12月20日判決は、買取価格は建物が現存するままの状態における価格であり、敷地の借地権そのものの価格は加算すべきでないとしています。ただし、建物が存在する場所的環境は参酌すべきとしており、いわゆる場所的利益を考慮する余地があります。

契約書に「建物買取請求をしない」と書いてあります。無効ではないのですか。

普通借地権の場合、13条・14条に反する借地権者に不利な特約は無効とされています(借地借家法16条)。一方、定期借地権(22条)や一定の事業用定期借地権(23条1項)では、買取請求をしない特約を定めることができます。どちらに当たるかで結論が変わるため、契約の種類と特約の効力は弁護士にご確認ください。

古い木造住宅でも、建物買取請求権で高く買い取ってもらえますか。

時価は建物が現存するままの状態の価格ですから、築年数が古く傷みが進んだ建物では、建物そのものの価格は低くなる傾向があります。そのうえで、建物が存在する場所的環境(立地による利用価値)をどの程度参酌するかが争点になります。借地権付建物として売る場合の価格とは大きく異なる点に注意が必要です。

鑑定が必要かどうかの確認だけでも構いません

物件の内容と手続の状況をうかがい、どの資料が必要か、費用はいくらかをお伝えします。必要がなければその旨をお伝えします。初回のご相談は無料です。

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