借地権付き建物の売買相場はどう決まる?借地権と建物を「足し算」できない理由を不動産鑑定士が解説
借地権付き建物の売買相場は借地権価格と建物価格の足し算ではありません。一体としての減価が生じる理由、借地権割合と賃料差額、鑑定評価の3手法、築年数別の想定ケースの試算で、価格の決まり方を不動産鑑定士が解説します。

「借地の上に建つ実家を売りたいけれど、売買相場がまったく見当がつかない」「借地権付き建物の購入を検討しているが、この売出価格は高いのか安いのか」。借地権付き建物(借地の上に建っている建物と、その建物を支える借地権をセットにした不動産)について、こうした疑問をお持ちではないでしょうか。インターネットで調べると「借地権価格+建物価格が目安」という説明をよく見かけますが、それだけで判断してよいのか不安に感じている方も多いはずです。
結論からお伝えします。借地権付き建物の売買相場は、借地権の価格と建物の価格を単純に足し合わせた金額にはなりません。借地権と建物を一体として見たときの「売りにくさ」や「使い続けられる見込み」が価格に反映されるため、合計額より低くなることが多いのです。借地権割合による目安は出発点にすぎず、地代・残存期間・建物の状態・地主との関係によって、成立する価格は大きく上下します。
この記事では、借地権付き建物の価格がどのような要素で構成され、なぜ足し算どおりにならないのかを、不動産鑑定評価基準の考え方と想定されるケースの試算を使って、私たち鑑定士が整理します。借地権単体の売却相場や売却先の違いは借地権の価格・売却相場で解説していますので、ここでは「建物とセットで売買するときの価格」に焦点を当てます。
借地権付き建物の売買相場は「借地権価格+建物価格」ではない
売買されるのは「借地権と建物のセット」
借地権は、借地借家法第2条で「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されています。建物の所有を目的とする権利ですから、実際の売買では借地権だけを切り離して売ることはまれで、ほとんどが建物とセットの「借地権付き建物」として取引されます。買い手から見れば、手に入るのは「地代を払いながら土地を使い続けられる権利」と「その上の建物」の組み合わせです。
単純合計が相場にならない理由
借地権の価格と建物の価格は、それぞれ別々に見積もることができます。しかし、両者を合わせた不動産が市場でいくらで売れるかは、別の問題です。たとえば次のような事情は、借地権単体や建物単体の価格には表れにくいものの、セットで売るときの価格を押し下げます。
- 第三者に売るには地主の承諾が必要で、承諾料の負担が見込まれる
- 住宅ローンを利用しにくく、買い手が現金購入者や事業者に絞られやすい
- 建物が古い場合、建替えに地主の承諾と承諾料が必要になる
- 地代の支払いが続き、将来の地代改定や更新料の負担も見込まれる
不動産鑑定評価では、土地と建物の価格を積み上げたうえで、両者を一体として見たときの減価(建物と敷地の適応の程度や、市場性の減退など)を反映させます。借地権付き建物では、この「一体としての減価」が所有権の土地付き建物より大きくなりやすいのです。
借地権付き建物の相場情報が少ない理由
所有権のマンションや戸建てであれば、周辺の成約事例から相場をある程度つかめます。借地権付き建物は取引件数が少なく、しかも地代の額、契約の残存期間、承諾料の有無といった価格を左右する条件が物件ごとに異なるため、「このエリアの借地権付き建物は坪いくら」という相場が成り立ちにくいのが実情です。広告に出ている売出価格も、あくまで売主の希望価格である点に注意が必要です。
借地権付き建物の価格を構成する要素
借地権の価格:借地権割合は出発点、中心は賃料差額
借地権の価格の見当をつける出発点としてよく使われるのが、借地権割合(更地価格のうち借地権が占める割合)です。国税庁の路線価図には、A(90%)からG(30%)までの記号で地域ごとの借地権割合が示されています。ただし、これは相続税などを計算するための課税上の割合です。
不動産鑑定評価基準は、借地権の価格の中心を、長期間にわたって土地を使える安定的な利益と、賃料差額(その土地に本来見合う適正な地代と、実際に支払っている地代との差)に基づく経済的利益のうち、慣行的に取引の対象となっている部分と位置づけています。地代が周辺より安い借地権ほど価格が高くなり、地代が高い借地権ほど価格が低くなるのは、この賃料差額の違いによるものです。割合と実際の価格がずれる理由は借地権割合と取引価格の違いでも解説しています。
建物の価格:残りの耐用年数と建替えの見込み
建物の価格は、同じ建物を今建てた場合の費用(再調達原価)から、築年数に応じた減価を差し引いて求めるのが基本です。借地権付き建物で特に重要なのは、建物があと何年使えるかという点です。築浅であれば建物にも相応の価値が残りますが、築年数が経って建替えが必要な段階であれば、建物の価値はほとんど残らず、むしろ取壊し費用や建替え承諾料の負担が意識されます。
地代・残存期間・地主の承諾:価格を上下させる個別の要因
借地権付き建物の価格を大きく左右するのは、次のような個別の事情です。
- 地代の水準:周辺の水準より高ければ価格は下がり、低ければ上がる方向に働きます
- 契約の種類と残存期間:旧法借地権か、平成4年8月1日以降の普通借地権か、定期借地権かで、使い続けられる見込みが異なります
- 承諾料の負担:第三者に譲渡するときの譲渡承諾料(名義書換料)や、建替え時の承諾料の見込み
- 契約書と登記の状態:契約が書面で明確か、建物が借地人名義で登記されているか(借地借家法第10条の対抗力に関わります)
鑑定評価では借地権付き建物の価格を3つの手法で求める
評価基準が定める借地権付き建物の評価方法
不動産鑑定評価基準(各論第1章第2節)は、借地権付き建物のうち、建物を借地権者が自ら使っているものについて、積算価格・比準価格・収益価格を関連づけて鑑定評価額を決定するとしています。一つの計算式で機械的に出すのではなく、性格の異なる三つの価格を突き合わせて、市場で成立する価格を見極めるという考え方です。
積算価格・比準価格・収益価格の違い
三つの価格の考え方を整理すると、次のとおりです。
| 価格 | 求め方の概要 | 借地権付き建物での着眼点 |
|---|---|---|
| 積算価格 | 借地権と建物の価格を積み上げ、一体としての減価を反映 | 足し算からいくら差し引くべきか |
| 比準価格 | 借地権付き建物の取引事例と比べて求める | 事例の地代・残存期間の違いを補正 |
| 収益価格 | 貸した場合の純収益から求める | 地代を差し引いた後の収益力 |
積算価格は「費用の面から見た価格」、比準価格は「市場の取引から見た価格」、収益価格は「収益性から見た価格」です。借地権付き建物は取引事例が少ないため、比準価格だけに頼ることは難しく、積算価格と収益価格による裏付けが重要になります。
建物を貸している場合は収益価格を重視する
借地権付き建物を第三者に賃貸している場合、評価基準は収益価格を標準とし、積算価格と比準価格を比較考量して決めるとしています。家賃収入から地代や修繕費などを差し引いた純収益がどれだけ見込めるかが、価格の中心になるということです。貸家として使われている借地権付き建物を売買するときは、利回りの観点からも価格を確認する必要があります。
想定されるケースで見る借地権付き建物の価格
前提条件
説明のための想定されるケースとして、次の条件の木造戸建てを考えます。数値はすべて仮のもので、実際の価格を示すものではありません。
- 更地価格:3,000万円(周辺の取引水準から見た、借地権が付いていない土地の価格)
- 借地権割合:60%(路線価図の記号D)
- 建物:木造2階建て、延床面積100㎡
- 契約:旧法借地権、地代は周辺水準並み、地主は譲渡に協力的
築年数による価格の違い
建物の築年数だけを変えて、借地権付き建物の価格がどう変わるかを試算すると、次のようになります。
| ケース | 借地権価格の目安 | 建物価格の目安 | 一体としての価格の目安 |
|---|---|---|---|
| A:築10年 | 1,800万円 | 1,000万円 | 約2,250万〜2,500万円 |
| B:築30年 | 1,800万円 | 200万円 | 約1,600万〜1,800万円 |
| C:建替えが必要 | 1,800万円 | 0円(取壊し費用あり) | 約1,300万〜1,450万円 |
借地権価格の目安は、更地価格3,000万円×借地権割合60%=1,800万円です。ケースAでは、合計2,800万円から、譲渡承諾料の負担見込みや買い手の範囲の狭さを考慮して1〜2割程度を差し引いた水準を想定しています。ケースBでは建物の価値が小さくなり、合計2,000万円から同様に1〜2割程度を差し引きます。ケースCでは建物の価値はなく、借地権価格の目安1,800万円から取壊し費用(仮に200万円)を差し引いた1,600万円を出発点に、建替え承諾料の負担や買い手の範囲の狭さを見込んでさらに1〜2割程度を差し引いています。
減価の幅はあくまで説明のための仮置きです。実際には、地代の水準、残存期間、地主の協力姿勢、周辺で借地権付き建物がどの程度取引されているかによって、減価の大きさは物件ごとに異なります。
同じ割合でも価格が分かれる場面
ケースAと同じ条件でも、地主が譲渡の承諾に消極的で、地代も周辺より高いという事情があれば、買い手はさらに慎重になり、成立する価格は下がります。反対に、地代が安く、契約書が整い、地主が承諾書の発行に協力的であれば、住宅ローンを使う買い手にも届きやすくなり、減価は小さくなります。借地権割合が同じでも、これらの条件の違いで数百万円単位の差が生じ得ることを、私たち鑑定士は実務で意識しています。
借地権付き建物を売買する前に確認したいこと
売却先によって価格の水準が変わる
借地権付き建物の売り先は、大きく分けて地主、第三者(個人・事業者)、買取業者の三つです。地主が買い取る場合は、完全な所有権を回復できるメリットがあるため、条件次第では第三者に売るより有利な価格が成立し得ます。買取業者は転売の利益とリスクを見込むため、提示額は低めになる傾向があります。なお、当事務所は宅建業者ではないため、売買の仲介や買取りは行いません。売却を進める場合は、地元の宅建業者をご紹介できます(紹介料は頂きません)。
譲渡承諾料は誰が負担し、価格にどう織り込むか
第三者に売る場合は地主の承諾が必要で、譲渡承諾料が発生するのが一般的です。日本地主家主協会の解説では、借地非訟で裁判所が譲渡を許可する場合の承諾料は、概ね借地権価格の10%程度を基準に諸事情を考慮して決められていると紹介されています。これは裁判所が定める場合の目安で、当事者の交渉額を拘束するものではありません。負担者と売買価格への織り込み方は借地権の売買で承諾料は誰が払う?で詳しく解説しています。地主が承諾しない場合の借地非訟の手続や見通しは、弁護士にご確認ください。
価格の根拠を持って交渉に臨む
売出価格を決めるとき、地主から買取りを打診されたとき、買取業者から提示額を受け取ったとき。いずれの場面でも、根拠のある価格を手元に持っているかどうかで、交渉の進め方は大きく変わります。借地権付き建物の鑑定評価書は40万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書は15万円〜、業者の提示額や相手方の資料を検証するセカンドオピニオンは5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金をご覧ください。売却に伴う税金については税理士にご確認ください。
まとめ
借地権付き建物の売買相場は、借地権と建物の価格の足し算ではなく、両者を一体として見たときの市場性を反映して決まります。
要点を振り返ります。
- 借地権付き建物の価格は、借地権価格と建物価格の合計から、承諾料の負担見込みや買い手の範囲の狭さなど一体としての減価を差し引いた水準になりやすい
- 借地権割合による目安は出発点にすぎず、評価基準は賃料差額に基づく経済的利益を借地権価格の中心としている
- 建物の価格は残りの耐用年数と建替えの見込みで大きく変わり、建替えが必要な建物は取壊し費用や承諾料が意識される
- 評価基準は、自用の借地権付き建物を積算価格・比準価格・収益価格を関連づけて評価するとしている
- 同じ借地権割合でも、地代・残存期間・地主の協力姿勢で数百万円単位の差が生じ得る
借地の上に建つ家の売却を考えている借地人様(借地人様へ)、借地人から借地権付き建物の買取りを持ちかけられた地主様(地主様へ)に、当事務所は中立の立場から価格の根拠をお示しします。
借地権付き建物の価格や承諾料の妥当性でお悩みの地主様・借地人様、借地非訟や底地・借地権の評価を扱う士業の先生は、初回無料相談をご利用ください。ぜひ一度ご相談ください。
REFERENCES
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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