底地の相続税評価と時価はなぜ乖離する?貸宅地評価と鑑定評価基準の底地価格を不動産鑑定士が比較
底地の相続税評価(貸宅地評価)は「自用地評価額×(1−借地権割合)」で求めますが、市場で成立する時価とは一致しないことが少なくありません。乖離が生じる理由と、その方向が一方向ではないことを、不動産鑑定評価基準の底地価格の考え方と比較して解説します。

「相続税の申告では底地を4,000万円と評価したのに、借地人や業者に打診すると、とてもその金額では売れないと言われた」。底地(借地権が付いている土地の所有権)を相続した方や、その申告を担当する税理士の方から、こうした戸惑いの声を耳にすることがあります。
底地の相続税評価と、市場で成立する時価がずれるのは珍しいことではありません。両者は目的も計算の考え方も異なる別の数字だからです。しかも乖離の方向は、常に「時価の方が低い」とは限りません。この記事では、貸宅地評価と不動産鑑定評価基準の底地価格を比較し、乖離が生じる理由を私たち鑑定士の視点から整理します。税額の計算には踏み込みません。
底地の相続税評価(貸宅地評価)の仕組み
自用地評価額から借地権割合を差し引く
相続税・贈与税の財産評価では、借地権の目的となっている宅地(貸宅地)は、次の算式で評価します(財産評価基本通達25、国税庁タックスアンサーNo.4613)。
貸宅地の評価額=自用地としての価額×(1−借地権割合)
一方、借地権は「自用地としての価額×借地権割合」で評価します(同通達27)。自用地としての価額とは、他人の権利の目的となっていない土地、いわゆる更地としての評価額です。
借地権割合は路線価図の記号で決まる
借地権割合は、借地事情が似ている地域ごとに定められ、路線価図の路線価の後ろのアルファベットで示されています。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
なお、借地権の取引慣行がないと認められる地域にある貸宅地は、借地権割合を20%として計算するとされています(国税庁タックスアンサーNo.4613)。借地権割合の意味については借地権割合で解説しています。
あくまで課税のための統一的なルール
この方法は、膨大な数の財産を公平かつ簡便に評価するための仕組みです。個々の底地の地代水準や契約内容、借地人との関係といった事情は、原則として反映されません。
鑑定評価基準が定める底地の価格
底地価格は地主に帰属する経済的利益
不動産鑑定評価基準は、底地の価格を、借地権設定者(地主)に帰属する経済的利益、すなわち実際に受け取る地代から諸経費等を控除した部分の期間に対応する経済的利益と、期間満了等によって土地が戻ってくる経済的利益の現在価値として捉えています。将来見込まれる一時金(更新料など)も、この利益を構成する場合があります。
収益価格と比準価格を関連づける
底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めて得た収益価格と、比準価格(類似の底地の取引事例から求める価格)を関連づけて決定するとされています。つまり、鑑定評価は「その底地から地主が実際にどれだけの収益を得られるか」を出発点にします。
借地人が買い取る場合は価格が変わり得る
評価基準は、底地を借地権者が買い取る場合には、土地と建物が同一の所有者に帰属することで市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきとしています。これは、特定の当事者間でのみ成立する「限定価格」の典型例として、評価基準の総論にも挙げられています。底地価格の考え方は底地の価格で詳しく解説しています。
底地の相続税評価と時価が乖離する理由
理由1:地代が低く、土地を自由に使えない
古くからの借地では、地代が公租公課(固定資産税・都市計画税)に比べて低い水準に据え置かれていることも少なくありません。鑑定評価は実際の地代を出発点にするため、地代が低いほど底地の収益価格は低くなります。貸宅地評価の算式には地代水準が入らないため、ここで大きな差が生じます。
加えて、底地の所有者は土地を自ら使うことができず、更新の拒絶には正当の事由が求められるため(借地借家法6条。旧法借地権の更新は旧借地法による)、土地が戻ってくる時期も見通しにくいのが通常です。第三者の投資家から見れば、使い道が限られ、収益も低い資産です。こうした市場性の低さも、比準価格や収益価格を押し下げる方向に働きます。
理由2:借地権割合は取引上の割合ではない
評価基準は「借地権の存在は、必ずしも借地権の価格の存在を意味するものではない」とし、借地権の取引慣行の有無や成熟の程度は地域によって異なるとしています。路線価図の借地権割合は課税上の割合であり、その地域で底地と借地権が実際にその比率で取引されていることを示すものではありません。
数値で見る乖離のイメージ
貸宅地評価と収益に基づく価格の比較
説明のための仮の数値で、計算も大幅に単純化しています。実際の鑑定評価では、期間満了等による復帰価値や将来の一時金、取引事例なども考慮します。
- 自用地としての評価額:1億円、借地権割合:60%(D)
- 貸宅地評価:1億円×(1−0.6)=4,000万円
同じ底地について、年間地代が120万円、公租公課などの諸経費が年30万円だとすると、地主の手元に残る純収益は年90万円です。仮にこれを3%の利回りで還元すると、90万円÷3%=3,000万円となり、貸宅地評価を1,000万円下回ります。
乖離の方向は一方向ではない
一方で、路線価は地価公示価格等の8割程度を目安に設定されているため、自用地としての評価額そのものが市場の更地価格より低めに出ていることがあります。また、借地人が底地を買い取る場面では、前述の増分が生じ、第三者に売る場合より高い価格が成立し得ます。時価が相続税評価を下回る場合も、上回る場合もあるということです。
税理士・相続人が押さえたい実務上のポイント
評価の目的を分けて考える
相続税の申告で用いる評価と、遺産分割や底地の整理(借地人への売却、借地権との同時売却など)で用いる時価は、目的が異なります。申告上どの評価によるべきか、通達評価によらない評価が問題になり得るかといった判断は、税務の専門領域です。税務上の取扱いは税理士にご確認ください。
遺産分割・底地整理では時価の根拠が必要
相続人間で底地を誰が取得するかを決める場面や、借地人から底地の買取りを打診された場面では、課税上の評価額ではなく、根拠のある時価が交渉の土台になります。相続での土地の評価全般については、相続における土地の評価もご参照ください。地代の水準が適正かどうかは、地代の相場の解説をご参照ください。
鑑定評価で確認する主な事項
底地の鑑定評価では、課税上の評価では反映されない個別の事情を一つずつ確認します。主なものは次のとおりです。
- 借地契約書の有無と内容(設定時期、存続期間、特約、書面か口頭か)
- 現在の地代額と改定の経緯、公租公課との比較
- 更新料や承諾料など、過去に授受された一時金と将来見込まれる一時金
- 借地上の建物の構造・築年数と、借地権の残存期間
- 周辺の底地・借地権の取引の状況
資料が揃っていない古い借地も少なくありませんが、分かる範囲の事実を積み上げて評価の前提を明らかにすることが、相続人間や借地人との協議で説明のつく数字につながります。
まとめ
- 貸宅地評価は「自用地評価額×(1−借地権割合)」という課税上の統一ルールで、地代水準や契約内容は原則として反映されない
- 鑑定評価基準の底地価格は、実際の地代に基づく収益価格と比準価格を関連づけて求める
- そのため両者は乖離しやすく、乖離の方向は地代水準や取引の相手方によって上下どちらにもなり得る
底地を相続された地主様、底地を含む相続案件を担当される税理士の先生方は、申告上の評価とは別に、時価の根拠を中立の不動産鑑定士の評価で確認しておくことをおすすめします。費用は料金ページをご覧ください。
初回のご相談は無料です。ぜひ一度ご相談ください。
REFERENCES
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
借地権・底地の価格や承諾料を不動産鑑定士がどう評価するか、費用や進め方は借地・底地の不動産鑑定のページでまとめています。
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