借地非訟の介入権とは?地主が借地権を優先取得できる仕組みと「相当の対価」を不動産鑑定士が解説

借地人が借地権の譲渡許可を申し立てたとき、地主は自ら建物と借地権を取得する「介入権」を行使できます。借地借家法19条3項の仕組み、取下げ制限、鑑定委員会の役割、裁判所が定める「相当の対価」の考え方を、地主・借地人双方の視点から整理します。

著者:吉田 健人·読了 約9分
借地非訟の介入権とは?地主が借地権を優先取得できる仕組みと「相当の対価」を不動産鑑定士が解説

「借地権を第三者に売ろうとしたら地主に承諾を断られ、裁判所に許可を申し立てた。すると地主から『それなら自分が買う』と申立てがあった」。借地非訟(地主の承諾に代わる許可などを裁判所に求める手続)では、このような展開が起こり得ます。これが「介入権」です。

介入権は、地主にとっては土地の完全な所有権を回復する機会であり、借地人にとっては売却の相手が変わることを意味します。どちらの立場でも、焦点になるのは裁判所が定める「相当の対価」がいくらになるかです。この記事では、借地非訟の介入権の仕組みと、私たち鑑定士の視点から見た対価の考え方を整理します。

借地非訟の介入権とは何か

前提は借地権の譲渡許可の申立て

借地人が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合、土地の賃借権の譲渡には地主の承諾が必要です。第三者が取得しても地主に不利となるおそれがないのに地主が承諾しないとき、借地人は裁判所に「承諾に代わる許可」を申し立てることができます(借地借家法19条1項)。なお、19条は条文上「賃借権」を対象としています。

介入権は、この譲渡許可の申立て(および競売・公売で建物を取得した人による申立て)があった場合に、地主が対抗手段として行使できるものです。譲渡許可の手続そのものについては借地非訟と鑑定で、承諾料については借地権の譲渡承諾料で解説しています。

19条3項が定める介入権の内容

19条3項は、譲渡許可の申立てがあった場合に、裁判所が定める期間内に地主が「自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡を受ける」旨の申立てをしたときは、裁判所は相当の対価を定めてこれを命ずることができると定めています。この裁判では、当事者双方に義務の同時履行(建物・借地権の引渡しと代金の支払を同時に行うこと)を命じることもできます。

東京地裁の案内によれば、介入権の申立ては裁判所が定めた期間内に限ってでき、申立てがあると、原則として地主が建物と土地の賃借権を裁判所が定めた価格で買い受けることになります。

取下げの制限(19条4項・5項)

介入権の申立ては、借地人の譲渡許可の申立てが取り下げられたり、不適法として却下されたりすると効力を失います(同4項)。つまり、介入権の裁判が出る前であれば、借地人が申立てを取り下げることで介入を避ける余地があります。

一方、介入権の裁判があった後は、当事者の合意がなければ申立てを取り下げることができません(同5項)。東京地裁の案内でも、この場合は他方の当事者と書面で取下げの合意をすることが必要とされています。

介入権の手続と鑑定委員会

手続の流れ

東京地裁民事第22部の案内では、申立てから概ね1か月〜1か月半後に第1回審問期日が開かれ、その後、鑑定委員会による現地調査と意見書の提出を経て、裁判所が判断します。多くの事件は概ね1年以内に終わっており、和解による終了もあります。決定に不服がある場合は、決定書の送達から2週間以内に即時抗告ができます。

鑑定委員会が意見を述べる

裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、鑑定委員会の意見を聴かなければなりません(19条6項)。鑑定委員会は、弁護士・不動産鑑定士・有識者(建築士を含む)から3人以上で構成され、介入権の場合は建物及び借地権の価格について意見を述べます。鑑定委員の費用は国が負担するため、当事者の負担はありません。

代理人は弁護士に限られる

借地非訟事件の手続代理人は、原則として弁護士に限られます(借地借家法44条)。介入権を行使するか、行使されたときにどう対応するかは、法的な判断を伴います。詳しくは弁護士にご確認ください。まだ弁護士に依頼されていない方には、弁護士のご紹介も可能です。

地主・借地人それぞれの視点から見た介入権

地主の視点:完全所有権を回復する機会

地主にとって介入権は、借地関係を解消し、土地の完全な所有権を回復する機会です。見知らぬ第三者が新たな借地人になることを避けられる点も意味があります。一方で、裁判所が定めた対価を支払う資金を用意する必要があり、いったん介入権の裁判が出れば、合意なしに取り下げることはできません。行使の前に、対価の水準を見積もっておくことが重要です。地主様向けの情報は地主様へにまとめています。

借地人の視点:売却の相手が変わる

借地人にとっては、売却の相手が予定していた第三者から地主に変わることになります。対価は、第三者との間で合意していた売買価格がそのまま使われるとは限らず、鑑定委員会の意見を踏まえて裁判所が定めます。第三者との売買契約をどう扱うかも含め、申立ての段階から見通しを立てておく必要があります。

譲受予定者との関係

介入権が行使されると、譲受予定だった第三者は建物と借地権を取得できなくなる可能性があります。売買契約に、許可が得られなかった場合や介入権が行使された場合の取扱いを定めておくことが一般的です。契約条項の組み立ては弁護士にご確認ください。

鑑定士の視点:「相当の対価」をどう考えるか

評価の対象は「借地権付建物」

介入権の対価は、建物と借地権を一体として取得する対価です。不動産鑑定評価基準は、借地権付建物(借地権者が自ら使用するもの)の鑑定評価額を、積算価格・比準価格・収益価格を関連づけて決定するとしています。その基礎となる借地権の価格は、取引慣行の成熟度、地代の水準、残存期間、授受された一時金などを総合的に勘案して求めます。

具体的な算定方法は事案ごとに異なる

介入権の対価について、一定の率で機械的に決まるといった一律の基準は、条文上定められていません。鑑定委員会の意見を踏まえ、裁判所が事案ごとに「相当の対価」を定めるというのが、法律上の仕組みです。インターネット上の「相場」をそのまま当てはめるのは危険です。

CASE STUDY想定されるケース(架空)

売買予定価格と介入権の対価

説明のための仮の数値です。

借地人Aさんは、借地権付建物を第三者に2,500万円で売る契約を結びましたが、地主Bさんが承諾しないため譲渡許可を申し立てました。Bさんは介入権を申し立てました。

このとき、Bさんが支払う対価は2,500万円に自動的に決まるわけではありません。鑑定委員会が建物と借地権の価格について意見を述べ、裁判所が相当の対価を定めます。Aさん・Bさんとも、事前に根拠のある価格の見立てを持っておくと、主張や和解交渉の土台になります。

事前の評価が交渉と主張の土台になる

東京地裁の案内によれば、鑑定委員会の意見書の副本は当事者に交付され、意見書の提出から1か月〜1か月半程度で審問期日が開かれて、当事者から意見書についての意見を聴くとされています。つまり当事者には、意見書の内容を検討し、意見を述べる機会があります。

そのとき、手元に根拠のある価格の見立てがなければ、意見書の数字が高いのか低いのかを判断することすらできません。地代の水準、残存期間、建物の状態、周辺の取引の状況など、どの前提の違いが価格の差を生んでいるのかを把握しておくことが、的確な主張につながります。当事者が独自に不動産鑑定士の評価を得て、自らの主張の根拠として提出することもあります。借地権の価格の考え方は借地権の価格で解説しています。

まとめ

  • 介入権は、借地人の譲渡許可の申立てに対し、地主が自ら建物と借地権を取得する旨を申し立てる制度(借地借家法19条3項)
  • 介入権の裁判があった後は、合意がなければ申立てを取り下げられない(同5項)
  • 対価は、鑑定委員会の意見を踏まえて裁判所が「相当の対価」として定める。一律の率で決まるものではない

介入権の行使を検討している地主様、介入権を行使された借地人様、借地非訟事件を担当される弁護士の先生方は、対価の見立てを中立の不動産鑑定士にご相談ください。争訟案件の費用は料金ページをご覧ください。

初回のご相談は無料です。ぜひ一度ご相談ください。

REFERENCES

  1. 借地借家法(e-Gov法令検索)
  2. 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」
  3. 日本地主家主協会「第7回 借地非訟の概要」
  4. 不動産鑑定評価基準(国土交通省)

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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