借地権の建て替えを地主に拒否されたら?増改築禁止特約・借地非訟・旧法借地権の扱いを不動産鑑定士が整理
借地上の家を建て替えたいのに地主に拒否された。そんなとき、まず確認すべき契約の特約、借地借家法7条・17条・18条の仕組み、旧法借地権での扱い、建替え承諾料の考え方を、不動産鑑定士が一般論として整理します。

「古くなった家を建て替えたいと地主さんに伝えたら、『建替えは認めない』と言われてしまった」。借地上に家を持つ方にとって、建替えの拒否は住まいの将来に直結する深刻な問題です。
まず知っていただきたいのは、地主に拒否されたからといって、建替えの道が閉ざされるとは限らないということです。契約の内容によっては、そもそも地主の承諾が問題にならない場合もあり、承諾が必要な場合でも、裁判所に「承諾に代わる許可」を求める制度があります。この記事では、借地権の建て替えを拒否されたときに確認すべきポイントを、私たち鑑定士の視点から整理します。
地主が借地権の建て替えを拒否できるのはどんなときか
まず契約書の「増改築禁止特約」を確認する
最初に確認すべきは、借地契約書に「増改築をするには地主の承諾を要する」といった特約(増改築禁止特約・増改築制限特約)があるかどうかです。
こうした借地条件がない場合、建替えに地主の承諾が当然に必要になるわけではないと一般に解されています。反対に、特約があるのに無断で建て替えると、契約違反として解除などの争いに発展するおそれがあります。特約の有無と文言が、対応の出発点になります。
建物の構造・用途の制限にも注意
契約に「木造に限る」「居住用に限る」といった建物の種類・構造・用途の制限(借地条件)がある場合、たとえば木造から鉄骨造・鉄筋コンクリート造に変えるには、借地条件そのものの変更が必要です。借地借家法17条1項は、事情の変更により条件と異なる建物とすることが相当なのに協議が調わないとき、裁判所が借地条件を変更できると定めています。
期間満了前の再築と借地権の期間(7条)
借地借家法7条は、存続期間満了前に建物が滅失し、残存期間を超えて存続する建物を築造した場合、地主の承諾があれば、承諾日または築造日の早い方から20年間借地権が存続すると定めています。借地権者が再築を通知し、地主が2か月以内に異議を述べなければ承諾があったものとみなされます(契約更新後の通知を除く)。
つまり建替えの承諾は、「建ててよいか」だけでなく「借地権の期間がどうなるか」にも関わります。地主が建替えに慎重になるのは、新しい建物が建つことで土地が戻ってくる時期が大きく先に延びる、という事情があるからです。拒否の背景にある地主側の事情を理解しておくと、交渉の糸口も見つけやすくなります。
建て替え拒否への対応策:交渉と借地非訟
建替え承諾料を前提とした交渉
実務では、借地人が「建替え承諾料」を支払うことで地主の承諾を得る形がよく見られます。借地非訟の実務では、増改築の承諾料は全面的な改築で更地価格の3%〜5%、一部改築で更地価格の1%〜3%程度とされることが多いと紹介されています(日本地主家主協会の弁護士執筆の解説による)。ただしこれは裁判所が許可する場合の目安であり、交渉額を拘束するものではありません。詳しくは建替え承諾料をご覧ください。
増改築許可の申立て(17条2項)
交渉がまとまらない場合、借地人は裁判所に「増改築についての地主の承諾に代わる許可」を申し立てることができます(借地借家法17条2項)。対象は「土地の通常の利用上相当とすべき増改築」です。
裁判所は、借地権の残存期間、土地の状況、従前の経過その他一切の事情を考慮し(同4項)、当事者間の利益の衡平を図るため、財産上の給付(承諾料の支払)を命じることができます(同3項)。原則として、弁護士・不動産鑑定士・建築士などで構成される鑑定委員会の意見を聴いて判断します(同6項)。東京地裁の案内によれば、多くの事件は概ね1年以内に終わっており、和解で終わる例もあります。手続の全体像は借地非訟と鑑定で解説しています。
契約更新後の再築(18条)
契約の更新後に、残存期間を超えて存続する建物を築造することについて「やむを得ない事情」があるのに地主が承諾しない場合は、18条による再築許可の申立てが用意されています。ただし18条は、平成4年(1992年)8月1日以降に設定された借地権にしか適用されません。
旧法借地権の建て替えで気をつけること
旧法借地権でも増改築許可は利用できる
平成4年8月1日より前に設定された借地権(いわゆる旧法借地権)にも、借地借家法の規定は原則として適用されます(附則4条)。17条による借地条件変更や増改築許可の申立ては、旧法借地権でも利用されています。
期間や再築のルールは旧借地法による部分がある
一方で、旧法借地権の更新は「従前の例による」とされ(附則6条)、建物滅失後の築造による期間延長も従前の例、つまり旧借地法のルールによります(附則7条)。また18条は旧法借地権には適用されません(附則11条)。建替えが借地権の期間にどう影響するかは、旧法・新法で考え方が異なるため、契約時期の確認が欠かせません。旧法借地権の全体像は旧法借地権をご覧ください。
住宅ローンへの影響(一般論)
借地上の建物の建替えで住宅ローンを利用する場合、金融機関から地主の承諾書などの提出を求められることがあるといわれます。取扱いは金融機関ごとに異なるため、計画の早い段階で確認しておくことが大切です。詳しくは借地権と住宅ローンで取り上げています。
鑑定士の視点:建替え承諾料の根拠をどう考えるか
承諾料の土台は「更地価格」の見立て
建替え承諾料が更地価格の何%と語られる以上、土台となる更地価格の見立てで金額は大きく変わります。
更地価格の見立てで承諾料はこれだけ変わる
説明のための仮の数値です。実際の承諾料は個別の事情で大きく異なります。
全面的な建替えで、一般に言われる目安(更地価格の3%〜5%)を当てはめると、次のようになります。
- 更地価格を5,000万円と見た場合:150万円〜250万円
- 更地価格を6,000万円と見た場合:180万円〜300万円
同じ「3%〜5%」でも、更地価格の見立てが1,000万円違うだけで、上限で50万円の差が生じます。
建替えで借地権の価値はどう変わるか
不動産鑑定評価基準は、借地権の価格を求める際に総合的に勘案する事項として、「借地権の態様及び建物の残存耐用年数」や「契約締結の経緯並びに経過した借地期間及び残存期間」を挙げています。建替えによって建物が新しくなり、借地権の期間も延びれば、借地人が土地を安定して使い続けられる利益は大きくなります。
その一方で、地主にとっては土地が戻ってくる時期が遠のき、底地の価値に影響します。建替え承諾料は、こうした当事者間の利益の変化を調整するものと考えると、金額の根拠を議論しやすくなります。借地非訟で裁判所が「当事者間の利益の衡平を図るため」に財産上の給付を命じることができるとされているのも、同じ発想です。
評価基準では地代とのセットで考える
不動産鑑定評価基準は、契約条件の変更に伴って地代を改定する場合、条件変更承諾料や増改築承諾料の額を勘案して継続賃料を求めるとしています。承諾料と地代は切り離せない関係にあり、承諾料の授受とあわせて地代の見直しが話題になることも少なくありません。地代の考え方は、地代の相場の解説や継続賃料の解説をご参照ください。
まとめ
- 建替えを拒否されたら、まず契約書の増改築禁止特約・借地条件を確認する
- 承諾が必要な場合も、交渉がまとまらなければ借地非訟(17条2項の増改築許可など)という手段がある
- 旧法借地権では、期間や再築のルールに旧借地法による部分があり、18条は適用されない
- 建替え承諾料は更地価格の見立てで大きく変わるため、根拠のある価格を押さえて交渉することが大切
建替えを拒否されてお困りの借地人様、建替え承諾料の額に迷っている地主様は、中立の不動産鑑定士による評価を交渉や申立ての土台としてご活用ください。法的な対応の可否は、詳しくは弁護士にご確認ください。まだ弁護士に依頼されていない方には、弁護士のご紹介も可能です。
REFERENCES
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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