借地・底地の基礎

借地の地主が死亡したら?地代の支払先・契約・更新はどうなるかを不動産鑑定士が解説

借地の地主が死亡したら借地権はどうなるのか。契約が相続人に引き継がれる仕組み、遺産分割前の地代の支払先と供託、地主が変わった後の地代値上げや底地売却への備え、借地人が底地を買う場合の価格の考え方を不動産鑑定士が解説します。

著者:吉田 健人·読了 約13分
借地の地主が死亡したら?地代の支払先・契約・更新はどうなるかを不動産鑑定士が解説

借地の地主が死亡したと聞き、「借地権はこのまま続くのだろうか」「地代は誰に払えばいいのか」と不安になっていませんか。長年お付き合いのあった地主さんが亡くなったとき、借地人様からはこうした声をよくお聞きします。相続人から「契約を結び直したい」「地代を見直したい」と連絡が来て、身構えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論からお伝えします。借地の地主が死亡しても、借地契約はそのまま相続人に引き継がれ、借地権がなくなることはありません。地代の額や契約期間などの条件も、従前のまま続くのが原則です。注意すべきは、相続人が決まるまでの地代の支払先と、相続をきっかけに地主が変わった後に持ちかけられる地代改定や底地の売却の話です。

この記事では、地主の死亡から相続人の確定、地主が変わった後までを順に追い、借地人様が確認すべきことと備え方を私たち鑑定士が整理します。

借地の地主が死亡しても借地権は消えない

地主の立場は相続人に引き継がれる

民法第896条により、相続人は亡くなった人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます。土地の所有権とともに、借地契約の貸主としての地位(地代を受け取る権利や、土地を使わせる義務)も相続人に移ります。地主の死亡は、借地契約の終了原因ではありません。

したがって、借地人様が相続人と新しく契約を結ばなければ借地権を失う、ということはありません。契約期間、地代、更新に関する特約など、亡くなった地主との契約内容はそのまま相続人との間で効力を持ちます。

契約書の作り直しを求められたとき

相続人から「名義が変わったので契約書を作り直したい」と求められることがあります。貸主の名義を書き換える覚書であれば、記録を整理する意味で応じてもよいでしょう。ただし、新しい契約書の中に、地代の増額、更新料の支払、増改築禁止など、従前の契約になかった条件が加えられていないかは必ず確認してください。

借地人様に新しい条件を受け入れる義務はありません。旧借地法の時代に設定された借地権(旧法借地権)を、借地借家法の定期借地権などに切り替える内容になっていないかも重要です。条項の意味が分からないときは、署名する前に弁護士にご確認ください。

地主が変わっても名義変更料はかからない

借地人側が相続したときと違い、地主が相続で変わった場合に、借地人様が承諾料や名義変更料を支払う必要はありません。借地人側の相続と承諾料の関係は借地権の名義変更と相続で整理していますので、立場の違いを混同しないようにしましょう。

地主が死亡したときの地代は誰に払うか

相続人が決まるまでの地代の扱い

地主が死亡してから遺産分割で土地を取得する相続人が決まるまでの間、地代の支払先が分かりにくくなります。最高裁平成17年9月8日判決は、相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生じる賃料債権は、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権(各自が単独で請求できる債権)として確定的に取得すると判断しました。

つまり理屈のうえでは、遺産分割までの地代は相続人それぞれの取り分に応じて支払うことになります。実務では、相続人の代表者が受け取ることを相続人全員が合意し、その旨の書面をもらって代表者の口座に支払う方法がとられることが多いようです。一部の相続人だけの指示で支払先を変えると、後で他の相続人から請求されるおそれがあるため注意してください。

支払先が分からないときは供託する

相続人が誰か分からない、相続人の間で争いがあって誰に払えばよいか判断できない、という場合もあります。このように借地人様の過失なく債権者を確知できないときは、民法第494条第2項に基づき、法務局に地代を供託(お金を公的機関に預けて支払ったのと同じ効果を得る手続)することができます。法務局も、地主の死亡で支払先が分からなくなった場合の供託を案内しています。

最もしてはいけないのは、「誰に払えばいいか分からないから」と地代を払わずにおくことです。地代の滞納は、後に契約解除を主張される典型的な理由になります。支払先が決まるまで、毎月の地代を供託するか、少なくとも払う準備をして記録を残しておきましょう。

支払先の確認に使えるもの

支払先を確認するときは、次の資料が手がかりになります。

確認するもの分かること入手方法
土地の登記事項証明書相続登記後の所有者法務局で誰でも取得できる
相続人全員の合意書面代表受領者・振込先相続人から受け取る
遺産分割協議の結果の通知土地を取得した相続人取得した相続人から受け取る

2024年4月1日から相続登記が義務化され、土地を相続で取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました(不動産登記法第76条の2)。登記簿で新しい所有者を確認できるようになるまでの期間は、以前より短くなると考えられます。

地主が変わった後に起こりやすいこと

地代の値上げを打診される

相続をきっかけに地主が変わると、新しい地主から地代の見直しを求められることがよくあります。亡くなった地主が長年地代を据え置いていた場合、相続人は固定資産税や相続税の負担を踏まえて、地代が低すぎると感じることが多いためです。

借地借家法第11条は、土地の租税公課の増減、土地価格の変動、近傍類似の土地の地代との比較などによって地代が不相当となったときは、地代の増減を請求できると定めています。新しい地主からの値上げ請求そのものは正当な権利ですが、提示額をそのまま受け入れる義務はありません。合意できなければ調停・訴訟で相当な地代が判断されることになり、その間は借地人様が相当と考える額を支払えばよいとされています(同条第2項)。

底地が売却されて地主がさらに変わる

相続人が相続税の納税資金を準備するため、あるいは管理の手間を避けるために、底地(借地権が付いた土地の所有権)を売却することがあります。売却先が底地の買取業者であることも珍しくありません。

建物を借地人様の名義で登記していれば、借地借家法第10条により、新しい所有者に対しても借地権を主張できます。また、民法第605条の2により、貸主の地位は土地の買主に移り、買主は所有権移転登記をしなければ借地人様に地代を請求できません。新しい地主を名乗る人から連絡が来たら、登記事項証明書で所有者が変わっていることを確かめてから地代の支払先を変更しましょう。底地の買取業者が提示する金額の考え方は、底地の買取業者の提示額は妥当かで解説しています。

更新や建て替えの場面で条件が厳しくなる

地主が変わると、亡くなった地主との間の口約束や慣行(「建て替えのときは相談に乗る」など)が引き継がれず、更新料や承諾料の交渉が厳しくなることがあります。口頭でのやりとりは、新しい地主に対して証明が難しくなります。亡くなった地主との過去の合意や支払実績は、領収書や手紙なども含めて整理しておきましょう。

鑑定士の視点:地主の相続は「底地を買う」好機にもなる

相続人が底地を手放したい理由

相続人にとって、底地は扱いにくい財産です。地代収入は土地の価格に比べて少なく、自由に使うこともできません。一方で固定資産税はかかり続け、相続税の評価額に対して売却で得られる金額が低くなりやすいという事情もあります。このため相続をきっかけに、借地人様へ「底地を買い取ってもらえないか」と打診がくることがあります。

借地人が買うと価格が上がる理由

不動産鑑定評価基準は、借地権者が底地を買い取る場合のように、土地と借地権が一体となって市場価値が増すときの価格を「限定価格」(土地と借地権の併合などによって、市場が特定の当事者に限られる場合の価格)として求めると定めています。借地人様が底地を取得すれば、完全な所有権の土地になり、売却も建て替えも自由になります。この増分があるため、借地人様が買う場合の底地価格は、第三者の買取業者が買う場合の価格より高くなり得ます。

想定されるケースで比べる

以下は説明のための仮の数値です。

項目金額考え方
更地価格6,000万円完全な所有権の土地としての価格
借地権価格3,600万円借地権割合60%で試算
第三者に売る場合の底地価格1,200万円地代収入から見た価格(更地価格の20%)
借地人が買う場合の底地価格1,200万〜2,400万円一体化による増分の一部を加える

このケースでは、借地権と底地を合わせると6,000万円の更地になりますが、別々に見た価格の合計は4,800万円で、1,200万円の差があります。この差をどの程度地主と借地人で分け合うかが交渉の焦点になります。地主の相続人は第三者に売るより高く売れ、借地人様は完全な所有権を得られるため、双方に利点が生じる可能性があります。底地の価格の考え方は底地の利回り相場もあわせてご覧ください。

地主が死亡したと知ったときの進め方

ステップ1:契約書と支払記録を整理する

まず、借地契約書、更新時の合意書、地代の領収書や振込記録、亡くなった地主との手紙などをまとめます。契約期間の満了時期と、旧法借地権か借地借家法の借地権かも確認しておきましょう。

ステップ2:相続人と支払先を確認する

相続人の代表者から連絡があれば、相続人全員の合意による支払先の指定かどうかを確認します。支払先が定まらない場合は、法務局に供託の手続を相談します。

ステップ3:地代改定や底地売買の話には根拠を持って臨む

新しい地主から地代の値上げや底地の買取を持ちかけられたら、提示された金額の根拠を尋ね、こちらも根拠を持って話し合うことが大切です。当事務所では、交渉の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、地代の増額・減額の根拠となる継続地代の鑑定評価書と借地権・底地の鑑定評価書がそれぞれ40万円〜、相手方から示された金額や資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金をご覧ください。継続地代の求め方は、本体サイトの継続賃料4手法の解説でも紹介しています。

まとめ

借地の地主が死亡しても、借地契約は相続人に引き継がれ、借地権がなくなることはありません。慌てて新しい条件に応じたり地代を止めたりせず、支払先と契約内容を確認したうえで、地主が変わった後の話合いに備えることが大切です。

要点を振り返ります。

  • 地主の貸主としての地位は相続人に引き継がれ、契約内容は従前のまま続く(民法第896条)
  • 契約書の作り直しを求められても、新しい不利な条件を受け入れる義務はない
  • 遺産分割前の地代は相続人が相続分に応じて取得する(最高裁平成17年9月8日判決)。支払先が分からなければ供託する
  • 新しい地主からの地代の値上げ請求には、借地借家法第11条の考え方に沿って根拠を確認して対応する
  • 底地の売却を打診されたときは、借地人が買う場合の価格(限定価格)の考え方が交渉の目安になる

地主が亡くなり、地代や今後の契約に不安を感じている借地人様(借地人様へ)、相続した底地の扱いに悩む地主様(地主様へ)に、地代の水準や底地・借地権の価格を中立の立場からお示しします。法律上の見通しは弁護士に、相続税については税理士にご確認ください。

借地の地主が死亡した後の地代や底地の価格でお悩みの借地人様・地主様、借地の相続案件を扱う士業の先生は、当事務所の初回無料相談をご利用ください。ぜひ一度ご相談ください。

REFERENCES

  1. 民法(e-Gov法令検索)第494条・第605条の2・第896条
  2. 借地借家法(e-Gov法令検索)第10条・第11条
  3. 地主(家主)の死亡の通知を受けて地代(家賃)の支払先が分からなくなった場合にする供託(広島法務局)
  4. 不動産鑑定評価基準(国土交通省)

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

借地権・底地の価格や承諾料を不動産鑑定士がどう評価するか、費用や進め方は借地・底地の不動産鑑定のページでまとめています。

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